2026年8月13日。
池袋Lavis。
その朝、奏心(イノリ)の心は、不安でいっぱいだった。
歌声はまだ安定せず、思うように声を響かせることさえ難しい。
前世では味わったことのないほどの不安と緊張。
それは、試練に立ち向かうという勇ましいものではなかった。
ただ、目の前のことで精一杯だった。
それでも、決して忘れたくない想いがあった。
一人でも多くの人に、楽しいと思ってほしい。
自分の歌で、誰かの心を少しでも明るくしたい。
その想いを届けられるのか。
不安は消えない。
それでも彼女は、精一杯踊った。
胸から溢れる想いを、一つひとつ歌に変えて。
ただ、心のままに。
今の自分にできる、すべてを込めて歌い切った。
そして、その歌声は――
遠い記憶へと繋がってゆく。
懐かしい声が聞こえた。
初めて聞くはずなのに、ずっと昔から知っているような声。
きっと転生する前も、そのさらに前からも。
ずっとそばで支えてくれていた。
そう感じさせる、優しい声だった。
その人が何を考えているのかは、少しわかりにくい。
けれど、彼女を見つめる瞳は、どこまでもまっすぐだった。
どのような姿になろうとも。
どれほど不完全な存在であろうとも。
ただ、ありのままの彼女を慈しむ、優しい瞳。
彼女は知っていた。
この人は、自分を支えてくれる賢人なのだと。
氷雪の賢人 かずや。
固き石のような意志を持ち、揺らぐことなく支え続ける者。
その愛は何よりも深く、いかなる姿の彼女をも肯定する。
世界を支える氷柱のごとく逞しくありながら、
その本質は水のごとく、万物に合わせて姿を変える。
強さと優しさ。
揺るがぬ意志と、変化を受け入れる心。
そのすべてが、奏心の胸に静かに届いた。
そして――
彼女の心に、氷の力が宿る。

蒼き誓いは、ここに立てられた。
