転生の儀は、完全なものとはならなかった。
異世界からの妨害によって、かつて峰尾こずえと呼ばれた彼女は、不完全な姿で新たな世界へと降り立った。
本来、彼女が得るはずだった名は――
奏恋心(カナデココ)。
しかし、その心は二つに分かたれていた。
一つは、恋(レン)。
グラビアを通して育まれた、女性としての魅力を強く宿す心。
もう一つは、心(イノリ)。
アイドルとして歩んできた日々の中で育まれた、人を癒す力を強く宿す心。
異なる二つの心を抱えたまま、彼女は見知らぬ大地で目を覚ました。
薄れゆく意識の中で、確かに聞こえた声があった。
転生の儀の最中、送り人が彼女に託した言葉。
「新たな地で、十二の賢人を探しなさい」
「火、風、水、地、氷、雷、光、闇――八つの加護」
「そして、心を繋ぐ四つの依代」
「できるだけ多くの騎士を集めなさい」
「彼らはあなたの力となり、次なる儀式への道を開くでしょう」
「2027年6月13日」
「その日、十二の導きを得たあなたは、本当の姿へと至るでしょう」
そして、送り人は告げた。
「あなたの本当の名は、奏恋心」
「音楽を愛し、人を慈しみ、優しさを伝える力を持つ者」
「あなたが望むように、その歌で誰かを支える人となれますように――」
混濁する記憶の中で、彼女はその言葉だけを胸に刻んだ。
自分が何者なのか。
これから何が待ち受けているのか。
そのすべてを理解するには、まだ時間が必要だった。
それでも、歩き出さなければならない。
新たな大地へ。
まだ見ぬ賢人たちのもとへ。
今はただ、出会う人々に精一杯の歌を届けよう。
その想いを道標に、彼女の新たな旅が始まった。
